博士の愛した数式(小川洋子)/新潮社

 家政婦の「私」が、数学者の博士のもとに派遣されることから物語は始まります。 1975年に交通事故に遭ったことから、博士には記憶障害があり、それ以降の記憶はわずか80分しか持続しないのです。

 どんなに楽しかったことも、覚えておきたいことも、80分で自分の頭の中から消えてしまう。博士と、「私」と、ルートと博士が呼び名をつけた「私」の息子とが共有する時間は、80分以上積み重ねることはできず、それ以上の時間が経てば博士にとって初対面の人間になってしまう。その設定から派生していくエピソードや、自らの小さな過ちに対して大きすぎる罪悪感を抱えてしまう博士の姿は、とっても切ないです。  「瞬く星を結んで夜空に星座を描く(本文より)」ように次々と登場する、普段の自分ならみるだけで嫌になりそうな数字や記号たちは、数学を愛する博士の言葉によって彩られ、魅力的に映ります。


読了日:2004/07/14


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